「ナチ・プロ」の正体とは? 人間をまるでモンスターのように狩り、バグのように修正しようとする人たち【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「ナチ・プロ」の正体とは? 人間をまるでモンスターのように狩り、バグのように修正しようとする人たち【仲正昌樹】

 

 技術による支配の全面化に関するアンダースの議論は、ナチス国家とホロコーストの関係については誇張しすぎのようにも思えるが、ネットによって人間が人間を見る見方が大筋で規定され、ネットで流布している出来合いの言説を“自分の自発的な意見”として受容する現代の動物化した人たちの在り方にはかなり当てはまるように思える。ナチ・プロ現象はその典型である。彼らは、ネット上の流言飛語に踊らされ、ナチス化の恐れのある危険因子(ウィルス=悪質なミーム)を取り込んでしまったヒトたちを、まるでバクを除去するように駆除する作業に集団で従事している。自分たち自身が、ネット上の言説と同化して、ナチ・プロという型にはまった“主体性”を発揮しているという自覚は一切持たないまま。

 「〇〇という悪を生み出す危険因子Xを駆除する作業に従事する▽▽というタイプの人間は、自由と正義の側にいる」ことを保証する言説に感化され、自分自身がゲームのキャラのようになってしまう人間が増えている。それが、多数の不毛なキャンセル・カルチャー現象を引き起こしている。怖いのは、ナチスのコスチュームがかっこいいと軽口を叩くことではなく、それをナチス化因子と自動的に認定して、攻撃してしまう、技術的に自動化された反応、人間をどのようにでも加工可能なヒトという生命体として扱えてしまうメンタリティだ。

 

文:仲正昌樹

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✳︎重版御礼✳︎

哲学者・仲正昌樹著

『人はなぜ「自由」から逃走するのか』(KKベストセラーズ)

 

「右と左が合流した世論が生み出され、それ以外の意見を非人間的なものとして排除しよ うとする風潮が生まれ、異論が言えなくなることこそが、
全体主義の前兆だ、と思う」(同書「はじめに」より)
ナチス ヒットラー 全体主義

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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